2010年6月20日日曜日

クラウド時代の問題解決



最近のビジネスシステムの世界では、原因分析や予測は決して難しいことではない。必要な問題解決プロセスは、予測結果を元に対策を図るプロセスを実施することだ。


 AppleがiTunesStoreを中心に作り上げたエコシステムは、現在大成功している。クラウドの時代に入り、ビジネスはエントロピーの法則とうまく折り合いをつけながら規模を拡大し、クローズドなシステムの世界で成功をおさめようとしている。その理論的な解説は、LongTailだったり、ネットワーク理論だったりする訳だが、ここで注目したいのは、今ビジネスは秩序をもった大規模なシステムだということだ。

 当たり前だが、システムの中では、ロジカルな思考、技法は通じやすい。私は、KT法の社内講師の資格を持っていた時期もあり、問題解決の技法には割と熟練していると思う。システマティングな問題解決法が通じる世界が広がったことは喜ばしいことだ。仕事はソフトウエアエンジニアなので、当然、情報システムでは問題解決技法を多いに活用しているし、役に立っている。そして、最近、経営企画の活動に参画する機会もあり、同様の姿勢で事にのぞんだ。

 何年も前からロジカルシンキングが重要だと提唱されていた経営の世界で、問題解決手法は十分に通用するだろうと考えたのだが、現実は随分と違うようだ。参加した会議では割と感情的な「かん」とか自分の想いとか、あるいはトップが発言した仮説(これも想いに近いと思うが)を全面的に肯定する前提での企画・計画が進められた。たまに古い時代の自慢話が計画の裏付けとして発言される。私が冷たく批評し根拠を求めたり意見を述べると(これは、私の態度も悪いと反省しているが)無視されたり怒ったりとリーダは忙しい。結局、タイムリミットとなり、原因と対策らしきモノが用意される。つまり、当初の社長の仮説を根拠なく肯定することになった。
 気に入らないのは、社長の仮説が通ったことではない。むしろ、社長の仮説は正しいと思われる。問題は2つある。誰も検証しようとしないのだ。都合の悪いデータを提出すると、それは統計が間違っていると批判されるのだ。もう一つの問題は、原因となる現象が将来に渡り継続すると仮定した時の状態と、対策の効果を比較しないこと。つまり、対策の修正、あるいは見直しを行わないことだ。原因を追求しようとせず、対策をより良いものにしようとしないこと、社長の仮説に血や肉を注ぎ込まないことだ。第一の問題への解決の方向は、原因分析することだが、なぜ私たちのチームが原因分析行動をとれないのかと言う問題は分析すべき価値のある重要なテーマだが、一般敵なビジネスにインプリメントできることではないので書かない。第二の問題「対策をより良いものに出来ない」ことに対する技術的な点について書きたい。

 ビジネスは、非常にシステマティングな構造をもつようになったと思う。数々のコンサルティング会社のフレームワークな手法、ビジネスモデルと言う考え方、そしてクラウドベースのエコシステム。このような世界では、ロジカルにものを検討することが出来る。その前提で現在のトラブル、つまりあるべき姿と現実のギャップの原因を分析することは、手法的には奇抜なことではない。トラブルの傾向を把握し、変化点を見極め、想定原因を検討する。伝統的だ。
 その後、通常の手法では評価の物差しを用意し、複数の案を出し、その比較評価を行い選択する。また他の案の良いところを、選ばれた案に付加して、さらに良いものにする。しかし、ビジネスシステムは、コンピュータシステムと異なり、その構成要素は人が中心で、人は動かすのに時間がかかる。つまりシステムの変更に時間がかかる。折角、選ばれた案も実現する間にさらに現状が悪くなり、システム変更ができなかったり、もはや遅かったりする可能性が大きい。
 そこで、ビジネスシステムの問題解決に対しては、いくつか伝統的な手法に改良をくわえたい。
  1. あるべき姿、その比較の現在の姿の時間ポイントを将来の結果を得たい時点に置き換えること。
  2. 評価の物差しに時間による影響を加えること。例えば、資金繰りの悪化を招かないとか。

 未来時点にあるべき姿と成り行きの現実を置くためには、原因を分析したあと、その原因を放置していた場合の予測(成り行き予測)を行う必要がある。これが対策立案のスタートだ。ところが、ここでへこたれてしまうケースが多い。私の例もそうだった。チームは、成り行きの予想の酷さに怖じ気づき、その解決は営業現場や親会社の支援にぶん投げてしまったのだ。ここで逃げるか立ち向かうかが、経営者とそれ以外の人の違いだろう。ビジネスシステムのトラブルに対しては、時間軸への考慮が大きな比重を閉める。

 これからも原因分析は重要な問題解決プロセスであることは変わらない。原因分析の目的は、対策の立案(原因の裏返しが対策)に加え、成り行き予測(期待効果決定のためのベースライン)となる。正しい現状把握とは、正しい成り行き予測を得ることだ。