2010年7月1日木曜日

小さいSIerの差別化戦略

SSIer (Small System Integrator)ビジネスの成功の鍵(KSF)は、CS(顧客満足)だ。成果による差別化ではなく、工程による差別化が有効。CS獲得の重要な手法はプロトタイピングだが、その功罪も大きい。
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 ソフトハウスと言う呼び名は嫌いだ。その言葉には下請け体質の匂いがする。顧客と直接に話し、企画を提案し、アプリケーションソフトウエアを提供するビジネスを考えているが、それを小さなシステムインテグレーションと呼びたい。
小規模のSIが成立する市場で成功するための戦略はどのようなものかを考えてみた。

 システム構築の提出物は、もちろんアプリケーションソフトウエアだ。その評価は、品質・コスト・納期で成される。要求される機能を満足し、適切な価格で、決められた期日に納めることが良いSIの条件だ。最近はドキュメントにもうるさい。しかし、品質・コスト・納期で、SSIerは差別化できるだろうか? これは下請けの最低条件でしかないような気がする。
 納期品質コスト主義には、いくつかの欠点がある。システムの要求仕様は発注者の技量と経験に依存する。しかし、彼らは業務のプロであっても、ITのプロではない。今まで使っていたシステムの範囲でしか、機能を考えられない。そのシステムは熟れた技術をベースにするので、見積は、難度を考慮せず、最低単価による工数ベースになる。納期は、構築工数とは関係なく、発注者のイベントに依存している。例えば、○月までに完成していないと新センタの開始に間に合わないとか。結果、スケジュールに無理が入りやすい。これらの欠点の原因は、発注者と制作者が主従関係にあることだと思う。発注者が絶対神なのだ。
 もう一つ大きな問題がある。システム構築工程での問題だ。Waterfall型で開発が進められるが、進捗報告の会議の席上で、仕様の変更や追加が多くはいる。これは品質を混乱させ、納期を無理なものにし、コストアップとなる。本来、進捗報告のはずだったのに、検討会議に様変わりするのをずいぶんと経験してきた。このようなプロジェクトでは、たとえ成果物が守られたとしても、発注者も受注者もヘトヘトに疲れてしまい、しばらくはシステム開発プロジェクトはコリゴリとなるだろう。私はそうだった。

 Waterfall型は、大規模でトラディショナルなシステム開発には有効かも知れないが、SSIerがターゲットとする市場では欠点が目立ってしまう。また、このモデルをとると、SIerの競争戦略はコストや効率になる。それは大量生産による原価低減がとれないSSIerにとって身を削る行為だ。SSIerは別の競争戦略をとらなければ生き残れない。そのポイントは開発工程での顧客満足(CS)向上にあると思う。開発工程を進捗会議のような、一方的な報告ではなく、顧客との間のコミュニケーションと満足向上のための場として積極的に利用する場として、捉えることが出来たら、CSの向上に効果的ではないだろうか。

 最近終了したのだが、特殊な事情で海外のお客様からのシステム開発案件を受注した。出張できないこともあり、Requirementを受け取った後、評価版を急いで作成し、プロトタイピング手法で進めた。具体的には、Webアプリケーションにて構築し、テストサーバに公開し、ユーザに見てもらいながら、Skypeで仕様の詳細化とソフトウエアの改良を進めた。このスタイルはおおよそ上手くいったようだ。顧客は実際に動くものを触りながら、疑問点や新たなリクエストを提供し、また間違いを指摘することが出来た。また結果として進捗も、つまり完成度も判り、安心できたのではないかと思う。プロトタイピングを通じて、様々な提案も具体的に出来た。顧客満足度は、結構高かったのではないか。ただ、この方法は反省すべき点もある。一番問題だったのは納期だ。「親の願い」状態となった要求仕様は、終わることがない。どこかでフリーズする必要があったのだが、そのタイミングを見失った。どのように仕様に、けじめをつければ良かったかの手法も不明だ。また、プロトタイプ手法では表面の仕様(画面遷移、デザイン、ビジネスロジック)しか決定できず、内部処理(セキュリティ、データベース、アーキテクチャ、負荷への対処)については何も決定できなかった。

 SSIerは、成果物(納期、品質、コスト)では差別化することが出来ない。納期品質コスト主義のKSFは、コストにあるのだから。私の経験からすれば、SSIerは工程で他社との差別化を図るべきだと思う。工程重視主義のKSFはCS(顧客満足)にある、そしてCSを実現する手法の最有力候補がプロトタイピングだと確信している。
しかし、CS向上の点でプロトタイピング手法には改善・補完しなければならないこともある。以下にその課題を提示しておきたい。
- 納期厳守への対策
プロタイピングは活発になればなるほど、納期遅れになる。もっともWaterfall型も進捗会議の旅に納期遅れになるが :-p

- 最終ドキュメント
中間ドキュメント、メモ、TICKETが異常に多くなる。成果物の書類を作るタイミングがない。

- アーキテクチャが制限される
今のところ、Webアプリケーションが一番向いていると思う。

- 大規模開発には向かない
これは課題と言うより、制限だろう。大規模開発では使うべきではない。
これらを解決することがプロトタイピングによるCS向上戦略をとるSSIerのプロジェクト毎の課題となる。