2012年7月22日日曜日

怪鳥ロプロプの謎 ー エルンスト展感想 (駄文) ー


2012年7月15日、犬山城を後にして愛知県美術館に向かいます。お目当ては「マックス・エルンスト フィギュア X スケープ」展。
前回の「魔術・美術」展が、もの凄く面白い企画展だったので、今回の期待のハードルは高い、高いのです。到着したのは15時ぐらいだったでしょうか。

美術作品のテーマって
美術作品の企画展はテーマ設定が大変難しいのでしょう。XXXコレクションとか、一つの有名作品を見せるためのとってつけたようなxxx派展とか、触手が動きません。かといって、余りにストレートなテーマは想像の範囲が殆どなく単調です。シュールレアリズムの変遷とかは、ちょっと引いてしまいます。今回の「フィギュア X スケープ」は、いいですねえ。謎めいていて想像力が掻立てられます。手渡された解説を一寸読むと、テーマ判った気になるんですが、それほど浅くはありません。スタートは、コラージュ作品。詩集「反復」の挿し絵は正直、何が描かれているのか、その意図はさっぱり理解できません。でも、なにか一貫した「もの」がある気がする、感じるのです。恐らく、詩から受ける脳内のイメージを、詩と同じ方法で表現したのでしょう。詩は言葉を選び組み合わせることで新たな「なにか」を生み出すのですが、コラージュは既存の絵を切り貼りし、配置し組み合わせることで、別の「なにか」を生み出す手法ですから構造が良く似ています。それにしても、抽象度が高く観るたびにドキドキします。それはフリージャズを聴いてる時の興奮に似ている気がします。
挿し絵形式で物語の形式をとっているものがいくつか展示されていました。「不滅な人々の不幸な出来事」、「百頭女」、「カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢」、「ナイフ氏とフォーク嬢」、「慈善週間または七大元素」など。どれも不気味で、少しエロっぽくて、なにか物語が見えてきそうで、でも良く判らん。そしてドキドキします。そうか、これが美術作品群のテーマ・企画と言うものなのかと気づきました。直喩ではいけないのです。底が浅く、すぐに飽きてしまいますから。作者の意図も超えた、あるいは自分さえも判らない深層心理をすくい上げ、その手がかりを垣間見せるぐらいの得体のしれなさが必要だし、その一方で一つの流れや「くくるもの」が必要です。観る人は適当な幅で右往左往し想像出来るのが、良い芸術作品なのでしょう。そして良い企画展もそうなのでしょう。
石化した森

お気に入りの森
展示テーマとは別に、単純にマックス・エルンストの気に入った作品がありました。「森」シリーズです。「森」はエルンストが好んで油絵で描く題材らしく、今回の展示でも10点ほどあったと思います。そこには人や動物は出てきません。人を寄せ付けない深い神秘な森の様々な姿と単純な円で描かれた月が存在するだけです。森は唯々深く、月は無言で森の中に埋まっています。森の上ではないのです。森は、それほどに圧倒的に世界を支配します。国立西洋美術館の常設展に飾られていた、なじみの「石化した森」も展示されていました。なじみの人に偶然会えた感じで、ちょっと感動したりします。(右の写真、国立西洋美術館で撮ったもの)
今回、お気に入りに加わった作品もあります。「マクシミリアーナ、あるいは天文学の非合法的行為」(エッチング)の一連の作品です。文字と挿し絵で構成されているのですが、なんと文字はエルンストの造形なのです。これは、もうグラフィックデザイン、DTP、書道。文字は機能を換骨奪胎され抽象的な表意文字?になってます。これも森シリーズも絵葉書が販売されていないので、ちょっとがっかりです。

ロプロプの謎
ところで、エルンストの作品の中には随所に「ロプロプ」と名付けられた鳥人間が現れます。頭は鳥で体が人間です。解説によれば、エルンストが未だ子供の頃、可愛がっていた鸚鵡が死んでしまい、その日に妹が生まれた事から、鳥と人との霊的なつながりを知りショックを受けたのだそうです。自分にも守護霊的な鳥の存在がいることを確信し、自分の代理人・分身としての鳥(鳥人間)を作品に登場させるようになりました。ロプロプの名は、自分の子供に木馬を与え、それを揺すりながら「ギャロップ、ギャロップ」と囃していたため、子供は「ロプ、ロプ」と覚え口ずさんだことに由来すると書かれています。ロプロプの名は、その頃に初めてエルンストが発言し、「ロプロプが紹介する」と名付けたタイトルもあるそうです。
これからは私の想像です。自分の息子が「ロプロプ」と、はしゃいだ時エルンストは最初なんの事か判らなかったのではないでしょうか。そして自分には見えないが子供には「ロプロプ」と呼ばれるものが見えているのではないかと気づくのです。それは以前より信じていた自分の守護霊だと確信したでしょう。こうして自分の守護霊の名前を知ったのでないでしょうか。怪鳥ロプロプの誕生です。日本の言霊信仰によれば、名を持つことで、それは現実となるのです。

さらに、想像は続きます。長年、バビル二世の三つのしもべの名の由来はアニメファンの謎でした。ポセイドンは明らかに海の神が由来です。しかし、ロデムとロプロスは、由来が全く不明です。ギリシャ神話を含め、その名前はないのですから。もう御判りでしょう。恐らく、ロプロプが由来です。怪鳥ロプロプと呼ばれたエルンストの鳥人間を、どこかで耳にした横山光輝先生が、その語感の良さから採用し、ロプロスとしたに違いありません。バビルも、本来バベルのはずですが語感の良さからバビルに変更したそうですから、ロプロプーロプロス変換は、なにも問題なかったでしょう。

脱線しましたが、マックス・エルンスト展は、その企画テーマの御陰で素晴らしい世界観を持った展示となり、飽きることなく一気に観ることが出来る、そしてドキドキが止まらない楽しい展示でした。この感動を何度も深く味わうことが出来る充実したカタログにも満足です。これで、また次の企画展のハードルが上がってしまいました。